web-precious コラム

孝美的買い物指南「暮らしにひとつ、私のお気に入り」

本誌連載記事「日々是こころは休日」での飾らない、でもセンス溢れる暮らしぶりが大好評の松本孝美さん。このホームページの連載では、毎月手に入れた小物や食材など「お気に入りのお買い物」を公開! 第6回目は「根来塗のお盆」です。

撮影・文/松本孝美Vol.06 根来塗のお盆

 あるデパートの食器売り場を通り過ぎようとした時、ふと目についたのが根来塗の作品展。他にもお椀、菓子盆、酒器などたくさんの作品が並べられていた(と思う・・・)のですが、なぜか小さな長方形のお盆と目が合ってしまいひとめぼれ。店員さんに値段を聞くとそのお盆はディスプレイ用の備品で売り物では無いらしい。が、引き下がらずに調べてもらったところ、購入可能とのこと! 箱が無くてすみませんと恐縮する店員さんから丁寧に包んでもらったお盆を受け取って帰ろうとすると「作者は大蔵達雄さんという方なんですよ」とプロフィールを書いた紙をくれました。作品展だったので、どこかにお名前が書いてあったと思うのですが、このお盆の虜になってしまい他のものは背景同様で、すっかり見落としていたのでしょう。

 家に帰って包装を解き、どこがそんなに好きなのかじっくりと見てみました。このお盆に施した黒い模様がほかにひとつと無いということも大事な要素だと思うのですが、なんだろう? と考えているうちに何年も前の京都国立近代美術館で見た写真を思い出しました。それはとても大きく引き伸ばされた対の作品で、ひとつは雨雲がたちこめた空、もうひとつは皮膚にできた青痣をアップで撮ったものでした。その美術展で一番好きな作品だったので今でも良く覚えています。カタログを引っぱり出してきて確認したところ1995年の「クロッシングスピリッツ・カナダ現代美術展」で作者はジュヌヴィエーヴ・カデュー、作品名は「天一体」でした。大きさは、なんと181×573cm。

 カタログに載っている二枚の写真の横にお盆を並べてみたら、わたしにはとてもなじんでいるように思えるのですが・・・。大蔵達雄さんに怒られるかな? 

 空のようにも、青痣のようにも見える何とも不思議な模様のお盆です。使っていくうちに黒い部分が出てきて表情が変わるのも魅力です。変わっていくという点でも空と青痣のどちらにも共通していますね。

 ずっと眺めていたいのですが、使わないと模様も変わらないのでお茶を出すなどの用途の他に、お酒を呑む際にいろいろなお猪口を乗せて、しっとりと・・・とか、お正月のお菓子の残りをそれぞれビンにいれてお盆に載せ、ちょっとポップに・・・などを考えてみました。そして、小さめなので花台にするにも便利です。水仙を麻ひもで束ね、良い長さで真っ直ぐ切り(包丁で切ると上手くいきます)お盆の上に置いたアンティークガラスのボウルに立たせてみました。洋物のガラスもしっかり受け止めてくれます。

 いろいろなものの下でゆっくりと変わっていく模様。小さなお盆にも見えない時間が流れているのですね。


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